NO.3 「二世帯住宅について」・・・・程よい距離感が大切
エッセイ
最近また、二世帯住宅のニーズが増えてきました。 日本家屋は、家長制度のもと、長く多世帯同居型が主流だったと思います。必要に応じて間仕切り戸を開け放ち、大広間をつくる「田の字型」と呼ばれるプラン が中心でした。 戦前の農耕作業は、朝早くから夜遅くまで家族が一丸となって働くスタイルで、家の中では、家事と農作業の分業がしっかりしていました。 つまり多世帯同居型は、農耕文化にとって合理的スタイルのひとつだったのです。 ところが、戦後の農作業の機械化と個人主義の台頭は、世帯ごとの個を大切にするようになりました。 土地のミニ宅地開発も頻繁になり、一所帯一軒時代の到来です。
そして、それもつかの間、バブル期の地価値上がりで土地は庶民には高嶺の花となり、再び多世帯化、二世帯化へと変わってきたのです。また現在は、子 育ての面からも二世帯同居が称賛されています。そんな二世帯住宅を建てるときにも、さまざまな問題があります。『スープの冷めぬ距離が良い』と言われるよ うに、プライバシーの確保と距離感が大切です。また、どこまで共有し、どこまで個別化するかによっても形が違ってきます。ここでは二世帯の分けかた・配置 のとり方から考えてみる事にしましょう。①上下階で分ける。つまり親世帯を一階に、子世帯が二階にすむタイプ②左右対称に配置するタイプ。があります。上 下階で分けるタイプを選んだSさんの場合は、音の問題が、キーポイントでした。二階の子世帯の音が、一階の親世帯の生活リズムを狂わせないようにしなけれ ばなりません。音は空気の振動で伝わりますから、二階の梁(はり)に大きな角材を細かくいれ、床を強く、硬くして振動を押え、加えて遮音材・吸音材を入れ ました。左右に配置するタイプを選んだOさんの場合は、庭を中央に挟んだプランを提案しました。その庭に向かって、おのおのの世帯を対面させるのではな く、傾斜配置することによって、視覚の直接的な衝突を避ける手法をとりました。角度を持たせて、遠くを見るように配置して、ほどよい距離感が生まれ、いい 関係が生まれたようです。人は、無意識のうちに五感を使って自分の居場所を探しています。二世帯住宅を考える場合は、特に聴覚、視覚についての配慮が重要 です。そういう意味でも、住まい造りは単に家づくり、器づくりでなく『家族のあり方を考える場』なのです。何を分け、何を共用するかで二世帯のあり方(住 まい方)が、違ってきます。わが家の住まい方を真剣に考えたかどうかで、成功、失敗は大きく左右されます。「住まい方=居方」を大切に。。