NO.5 「オープンセット」・・・・「収納」も楽しく演出
エッセイ
収納品は、使い勝手によって、隠されたほうが良いものと、見えた方が良いものがあります。冠婚葬祭のすべてを自分の家で行っていた従来の家屋では、二間続 きの和室座敷を家の表舞台(はれの舞台)、日常使われている部分(けの舞台)と呼んで、家にメリハリをつけ、暮らしにけじめをつけました。古来使われてい たながもちは、そんな生活スタイルにあった移動式収納の知恵といってよいでしょう。
現代では、家族の集う居間を家づくりの中心に考えますから「はれの場所」、それを裏方から支える収納部分を「けの場所」と呼んでもいいかもしれません。最 近増えてきたウォークインクローゼットは、自分が収納庫に入れば、収納品を一望できるという点では、大変便利です。しかし、趣味で収集したものや書籍など は、いつでも見えていたほうが、便利ですし、楽しいはずです。
長岡市にお住まいの女性Aさんは、ブテイックに展示されているような、見て楽しむスタイルを希望されたので、寝室に透明ガラス扉の傾斜棚を設け、愛用衣服 がいつでも見えるようにしました。この場合、収納機能を超え自分だけのインテリア空間が演出でき、とてもリッチな気分になれると言っておられました。ま た、エンジニアのMさんは、結婚と同時に家を建てることになりました。建築時の第一条件は、若き日に愛用したバイクを物置にしまってしまうのではなく、常 に目のつく場所に置きたい。つまり思い出の品と一緒に暮らしたい、という希望をお持ちでした。そこで、ダイニングの吹き抜けに、ピカピカに手入れされたバ イクをインテリアとして飾り、ダイナミックな個性あふれる空間をつくりました。
このように、インテリアと収納の両方の機能を併せ持つものをクローゼットに対比させて、オープンセットと考えてはどうでしょう。クローゼットの言葉はク ローズ(隠された)とセット(置く)から組み合わされたものです。奥に追いやり、隠して置くものというふうにとらえがちです。例えば、キッチンにあるハッ チ収納は、全部見えるもの、全部隠すものばかりでなく、見え隠れするパッチワーク式の扉にすれば、インテリアとして楽しいかもしれません。「隠す」、「し まう」という収納の固定概念を「見せる」、「飾る」というオープンセットに置き換えてみてください。思い出いっぱいの大切な物を、「けの舞台」から「はれ の舞台」へ表出した時、住まいにも、新たな自分だけの物語が始まりそうです。
住まい造りにおける「収納考」は、実は個性を演出できるとても楽しい部分でもあります。