高田清太郎ブログ

NO.26 「老人の居場所①」・・・・居心地とにぎわい追求



エッセイ

介護保健法が施行されて満一年を迎えようとしています。また、ゴールドプラン21は04年度までに整備しなければならない福祉施設の数を明確にしておりま す。介護が必要な高齢者の数は毎年十万人ずつ増え続けるとも予想されています。在宅介護・施設介護の両面からのサービスの充実は、急務です。
福祉施設に関しては、建築家たちも要求された機能を満たすために一生懸命研究しています。中でも老健施設は長期療養型の居場所ですから、量的な収容能力 を超えてさまざまな介護サービスが要求されています。お年寄りの居場所も介護を必要とされるか否かで大きく変わってきます。老健施設「ぶんすい」は、そん な介護空間の居場所をどのように形に表していくかが大きな課題でありました。
お年寄りにとって居心地の良い空間とは?この質問に対しては一つに「包み込まれたい、囲われたい」欲求があるのです。そもそも人間は、母の胎内で包み込ま れて命をはぐくまれてきたからでしょう。二つ目には、開放的で動き回れる空間を常に求めているということを忘れてはなりません。三つ目には、年齢を重ねる ごとに意外に寂しがり屋になり、いつの間にかにぎわいを求めている習性を見落とすわけにはいけません。これらの大前提に立って計画が遂行されました。
そこで内部は中央にムロコアを造り、母の胎内のように居心地の良い、優しく包み込まれる空間をイメージしました。またホスピデンス棟のように、内部に外部的な広がりを持たせ、室内空間に閉じ込められた印象にならないように配慮させていただきました。
痴ほう症の人たちにとっても「家に帰りたい」という帰巣本能は強く、それをいやすために回遊式廊下を設置し、壁面には家々のシルエットを浮き出させまし た。天井面には青い大きな空を架け渡し、開放感を造ることにしました。柱は街路樹の写像でもあり、照明の枝たちで作る街並みはぶんすいまつりの桜並木。街 路の両側には療養室というわが家が添えられています。このように施設全体を縁日に見たて、にぎわいを作ることにしたのです。
お年寄りたちは、山中の静かな環境よりも、利便性の良い「にぎわい」のある環境を求めています。都心部に建設されたマンションは高齢者に人気があり、売り 出し直後に完売になる傾向がそれを裏づけてくれてもいます。お年寄りの居場所を考えるということは、まさに人間たちの居場所を考えること、そのものなのです。