NO.61 「フリースピタル」・・・・人を優しく包む居場所
エッセイ
喜多町診療所の外観(左上)、リカバリールームの音符照明(右上)、アーチ付き透析室(左下)、上下する照明シェード(有下)
地域のための一般診療所に加えて透析専門クリニックとして特化したフリースピタル「喜多町診療所」(長岡市)は20年近くの歴史を持っています。ベッド数が増床していく将来展望から増築計画が発表されたのが、3年前になります。
透析治療は1回の治療に4時間前後が必要。しかも1日おき週3回の治療を受けに来院しなければならないのです。患者さんには、とても大きな精神的肉体的 負担がかかります。呼び名だけでもホスピタル(病院)ではないほうがいいと、病院からの開放・フリーという願いを込めて「フリースピタル」としました。
最初に要求されたことは、ドクターが異常を察知したときには、いち早く対応できるよう、一望できる大きさの空間であってほしいというものでした。 しかし大きな空間は無機質に見えがち。そこで大きな空間の中にアーチフレームをつくり、小分け空間をつくりました。1ブロックは 6ベッド、1つの町内の班編成のようにし、ヒューマンスケールにフィットさせることにしました。
それでもベッドから天井まではかなり高い視距離が残ります。天井が高いと開放感はあるのですが、反対に包み込まれる居心地の良さをつくることはできませ ん。そこで、ヘッドの真上の照明器具にベッド大の電動式の昇降シェード(かさ)を付け、自由に上下できるようにしました。移動高低は2メートル。患者さん は自分の意思でシェードの高低を操作できるのです。
ほかにも透析室の前室としてリカバリールームを設けました。ここは治療前の心の準備室、治療後の回復室としての予備機能をもった半円形の空間です。
天井の形もカラーも含めて室内全体にグラデーションをかけることで、なだらかな自然な時空間の変化を醸し出してくれています。
さらに通路部分とたまり場部分を区画するために8本の照明スタンドを立て、喜びの歌「ミミファソソファミレ」の音階を照明灯具で表してみました。「建築が奏でる音」で楽しさをつくり出そうとしたものです。
「フリースピタル」は、「人を閉じ込める白い箱」ではなく「人を優しく包み込む居場所」になるよう、患者さん一人一人の個空間を大切にし、自主的に自分の空間をつくりだすことができる仕掛けづくりをした提案の第一歩です。