NO.65 「コートハウス②」・・・・地域の“たまり場”空間
エッセイ
中央にコートを持つ診療所の
全体模型(左上)、南面が傾斜した植栽屋根(右上)、診療所平面図(右中)、豊栄市立図書館(下)
壁を考えるとき、同時に「領域」について考えなければな りません。建築家の安藤忠雄氏の作品にはよく、守りと隔壁には最も効果的である打ち放しコンクリートの大きな壁が用いられています。氏の作品である豊栄市 立図書館は、敷地境界と建物本体の間にコンクリート壁を設け、歩く人を引き込む力が働くよう設計されています。
採用にはなりませんでしたが、長岡市内の診療所改築設計コンペで壁やコートの持つこうした機能を形としたプランを提案したことがあります。
計画は診療所とデイケアサービス施設を併設するものでした。建設地は工業地域、準工業地域、第一種住居地域が交わる四つ角。計画は、そのような条件の十 字路で工業地域と住居地域を融合させ、両地域の大きな落差を埋めて優しくつなぎ合わせる役割を持たせた施設建築物となることをコンセプトにしました。
2階建ての施設の住居地域側に向かって南傾斜している屋根ルーフに“仕掛け”を施して工業地域との緩衝帯になってくれることを狙いました。
まず、この大屋根の中央に18メートル×15メートルの楕円形に穴を開け、楕円形の吹き抜け空間のコートを造りました。
ここが町のコミュニケーションスペースになるように、コートには木を植え、春夏は青々とした生命のイメージ色を街に発し、秋は黄金色、冬は雪原の白とな り、自然とのかかわりを深く感じさせてくれます。さらに屋根全体にも環境問題を意識して緑を植栽、自然を象徴した緑の丘を出現させてみました。
コートを中心に西側に診療所、東側にデイケア施設を配置しコートに向かって開かれた格好になっています。荒海の外部空間からコートという内海に訪れる人たちをいったん招き入れることにより、集まる人たちを守ろうとしたものです。
道路沿いに雪国独特の雁木を回すことにより一層の内外部空間の緩衝帯になっています。お年寄りに安心感を持ってもらい、子どもたちに親しみを感じてもらえるシンボリックな建物となってほしいという願いでもあります。
このようにコートは一軒家におけるプライバシー確保空間から地域のたまり場コミュニティー空間として広がっていきます。