NO.68 「居場所探しの旅」・・・・完成と共に常に進化
エッセイ
一つ一つに形があり、一つ一つにわが家の光りがあり=小千谷市の山谷・坪野ほんやら洞まつり 「居場所」-この響きがもつ言葉にはいつも秘められた魅力と得体の知れない大きなエネルギーを覚えるのです。
「居る」とは「どこからともなくやってきてとどまる様」と広辞苑(第二版)は定義しています。人類もこれと同じ、どこに行こうとしているのか?よくは分かっていない。見方を変えれば人類の歴史は居場所探しの旅といっても過言ではありません。
私は同年代の井上陽水の歌が好きです。「夢のなかへ!」というタイトルの歌詞の中で「探し物は何ですか?見つけにくいものですか?…まだまだ探す気です か?」という一節がある。住まいづくりをしている人たちにとってこの詩はとても神髄をついていると思う。探し物は一体何なのか?本当に自分が求めているこ とは何なのか?それさえわからなくなっている。情報の氾濫で、その探し物は本当に大切なことなのか?建築を生業としている私も実は何にも分かっちゃいない じゃないか?と自問することしきりです。建築依頼者が何を望んでいるか判断できず形以前のすり合わせに多くの時間を費やすものです。
工法で悩む方。業者選定で悩む方。予算で悩む方。さまざまですが、それにもまして「わが家の住まい方、他の家では代用できない住まい方探し」のほうにとても時間がかかるのです。それもそのはず、住まい方は百人いれば百人の住まい方があるからです。
しかし時に住まいづくりが本当の居場所探しの旅にならずに表面的、規格的な提供に対しての選別、競争を繰り返しているような気がします。これは残念なことです。
居場所づくり(探し)は常に進行形でなければなりません。空間は時間と共に変化し、住まいづくりは、思いのうちに、考えつくってゆく過程の中にすでに住み始めているのです。そして完成と同時に新たな住まい方に進化してゆくのです。
68回にわたり私のつたない文章にお付き合いいただき本当にありがとうこざいました。
私にとっては、いろいろな方との出会いが居場所さがしの旅。これからもきっとたくさんの人と出会い、さまざまな居場所さがしの旅に出かけることでしょう。いつか、お互い旅の途中でまたお会いできる日を楽しみにしております。