NO.13 「楽しい空間」・・・・「ドラえもん」をイメージ
エッセイ
開業医をされているWさんとの出会いは十年前でした。打ち合わせはいつも、奥さまと当時五歳の長女Mちゃんもいっしょでした。Wさんご夫妻は、遊び 心のある楽しい住まいを希望されていました。特に四角四面の作り方に対しては拒絶反応がありました。また、住まいが、子どもも大人も多くの人がいっぱい集 まる居場所であってほしいと望まれてもいました。
Mちゃんは生まれつきの聴覚障害を持っています。笑顔がかわいく、打ち合わせの最中はいつもマンガを見ていました。一人でニコニコとページをめくり、感激 した場面に出合うと私たちの打ち合わせの中に入ってきます。Wさんご夫妻からは、今回の住まいづくりが、この子のための家造りであることを強く感じとるこ とができました。
奥さまは「収納庫が多く、なんでも収納できるものが家の真ん中にあるといいですね」と希望されていました。
打ち合わせの回数を重ねるある日「Mちゃんマンガ好き?」と聞きますとジェスチャーで、大きく手を広げて「こんなに好き」といわんばかりでありました。家 の真ん中からなんでも取り出せる収納とマンガの人気者・・・『ドラえもん住宅』とネーミングされたのはそれから間もなくのことでした。夢と希望を与えてく れるドラえもんは、いつでも変わらぬ子どもの人気者。のびのび空間づくりこそ今回のテーマでもありました。名前が付いた途端に形も具体化し始めたのです。
外観のアール壁面はドラえもんのおなか。越屋根は竹コプターをイメージ。一階はプレールームと和室で、ニ階は居間を中心に各部屋を放射状に配置。一階とニ 階をつなぐ滑り台は、隣接してつくられた階段と同調したアール曲線で優しい雰囲気をつくりました。ほかにもプールや板張りのピロティなど、子供が大喜びで 遊べる工夫がいっぱいの楽しい住まいに出来上がりました。
あれから十年。いくつかの改装をし、自らも進化をとげています。「Mは、いまでは想像できないほど生まれた当時のか弱さは消え、たくましく育ちました。中 学校で卓球部の選手として頑張っています。私たちの家造りは間違っていなかった。”心をはぐぐむ家造り”をしたことは今でも誇りです」とWさんはまな娘の 成長ぶりに目を細めています。
今日も「ドラえもん住宅」は、友達みんなが集まり、とってもにぎやかです。子どもにとって楽しい家は、家族にとっても楽しい住まいになりました。