高田清太郎ブログ

豊かな住まいづくりへ 私の提案



エッセイ

楽しく、個性を大切に

時代はめまぐるしく変化し、豊かさの尺度も時代と共に変わっています。しかし尺度には、変わらなければならない尺度(技術革新に伴う道具、材料)と 同時に、変わってはならない尺度(個性、想い)があると私は考えます。豊かな住まいづくりを望むなら、常に自分の想いを大切にして、住まいづくりの中心に 据えることです 。「カニは甲羅に似せて穴を掘る」という諺(ことわざ)がありますが、この諺は住まいづくりをする私たちに一つの、しかも強烈なヒントを与えてくれます。 他からの借り物「やどかり的発想」ではない、わが家のスタイルに合った住まいづくりを示唆してくれます。 住まいづくりは単なる箱づくりではなく、家族に とって大切な生命をはぐくむ場です。包まれる生命の営みと、包む器が一体となって初めて満足のいく住まいを手にすることができるのです。目に見える表面的 な形に惑わされず、なぜそんな形になっているのかを考えることです。そこで私は提案します。目に見える形づくりの前に、まずわが家のあり方、コンセプトづ くりを、と。「住まいづくりに成功法はありますか」と、ときどき聞かれます。私は決まって「楽しみながらつくりましょう」と答えさせていただきます。一口 に「楽しみながら」といってもなかなか難しいと言い返されてしまいそうですが、ポイントは、住まいづくりを工法選びと勘違いしないことです。工法は、わが 家のありかた、すまい方を考えた後で必然的についてくるものなのです。 その前に「私たちは一体どこに住むのだろう。どのように住まうのだろうか」が重大 なポイントです。出来上がったものの中に住む前に、まさにその過程の中に、「想いのうちに住む」ものなのです。 ではその「想い」をどう探りあてたらよい のでしょうか。それはまず、気ままに手当り次第に、何でも書き綴ることから始めてみてはいかがでしょうか。「想いたい放題」「言いたい放題」「書きたい放 題」に書いてみましょう。 書きたい放題に書くので「放題紙のすすめ」と私はよんでいますが、同じことを何度書いてもいいし、前に書いたことと相反しても いいのです。意外なときにやってくる言葉、何の整合性もない言葉の中から、意識しない自分、潜在的に意識している自分に会うことができるのです。 そこか ら、目に見えない想いを目に見える形に変える、わが家だけの「物語づくり」が始まるのです。テーマを決めて、ストーリーを創って家づくりができたら、何と 楽しいことでしょう。 また個性は、地域・地方性も大切にされなければなりません。新潟は気象的には、高温多湿、多雪型で、それに対応するさまざまな工法 があります。街並みも独特です。この気候風土のもとで独特の文化を形成してきたことを忘れてはなりません。 雪国には、雪国の文化を・・・。世界中に存在 するその地独特の建築群が、訪れる人に多くの感動を与えてくれるのと同じです。農耕文化からの倉や、雪国の生活に欠かせない雁木をデザインモチーフにして も楽しくなるでしょう。 また冬期間の生活の仕方も大きなファクターになってきます。屋外の生活が制限されるわけですから「イン・ドア・ライフ」への考え 方も取り入れると楽しくなってきます。ホビールームを作ったり、卓球台が置けるスペースやゴルフの素振り場ができれば楽しさが増します。大屋根の中に家を 造る感覚も面白いかもしれません。いずれにせよ建築は本来、環境と共生すべきものでありますから、風土的な存在であり、地域特性の文化を担い、その地にと け込むべきなのでしょう。 ”楽しく、さあ、楽しく住まいづくり”をするためには、私の個性、わが家の個性、地域の個性を大切にし、価値創造することだ と、提案させていただきます

(経済研究所だより 2001-6掲載)