高田清太郎ブログ

NO.58 「床の間」・・・・自由に演出 見直す好機



エッセイ

本来の読み書きスペースを持った出書院付き床の間(左上)、

部屋と一体化した床の間アール天井(左下)、光と協奏するビー玉が埋め込まれたガラス床の間(右)

 

 

日本人の心の中にある風景の一つに水墨画があります。白黒(モノトーン)の絵の中に豊かな色彩を埋め込んでいる不思議な世界です。
かつて和風住宅であれば必ず一つは取り入れられた空間に座敷があります。座敷には決まって床の間がありました。
床の間は小さな空間ですが、もともと掛け軸を飾るために造られた、とても粋な空間でもあります。照明器具のない時代は、掛け軸には書院障子ごしの光が当たり、水墨画的モノトーンの世界が広がっていたのです。薄暗がり空間は神秘的で格調ある重みを醸し出してもいます。
近年は薄暗がりの床の間天井に見返り灯と称して照明器具が付けられるようになりました。「掛け軸と床の間」の関係は、「絵と額」の関係といってよいでしょう。ちょうど絵が額に入れられて一層見栄えするように掛け軸も床の間によって引き立てられるのです。

Kさんの場合は昔流の出書院付きの床の間を造りました。書院ですからもともとは、そこで手紙を書いたり書を読むこともできるのです。
Tさんの床の間は和室のアール天井の連続一体下にあり、両側には仏壇と押し入れを設置。その上にはアッパーライトで天井に光のむらをつけることで別の空間をつくりだそうとしたものです。
Mさんは、打ち放しコンクリートの壁と畳床で構成された茶室風和室四畳半に、モダンな床の間を造りたいと希望されました。床の間の床に強化ガラスを使 い、ガラスの床下にビー玉を設置。照明を当てると宝石のようにキラキラ美しく輝きます。伝統的な和室に遊び心いっぱいの意外性を与えてみました。
今でも正統派の床の間は主流をなしていますが、若い人たちの床の間観は形式にとらわれず自由で床の間それ自体がデザインされ、空間の一部を飾るようなものになってきています。
床の間は象徴的空間よりも機能的空間の役割を担ってきているといってもいいでしょう。
ところで、思いを込めて造った床の間が物置き床になっていませんか?
ちょっと心配です。いっそ形式から脱却して床の間をわが家を演出するパフォーマンス装置と考え自由に演出してみてはいかがでしょう。お正月は床の間を見直すいいチャンスかもしれません。