吾輩は猫(の額)である!
エッセイ
すまいは巣舞
巣は形・舞は想い
想いを形に
巣舞るフォー・ユー
高田建築事務所
猫の手も借りたい!〔ほど忙しい〕
* 春がそこまでやって来ている。3月6日は啓蟄:土の中から様々な生命が地面に顔を出す季節である。田圃のあぜ道や農道をキャンバスにモグラや小動物が自由気ままに自作自演の版画を制作している。版画展出店作品は今年も活況である。春は全てのものが復活する季節でもある。生気みなぎる季節である。
・ 私はと言えば久々に風邪を引いてしまった。久々に寝込んでしまった。そして久々にブログも中断してしまった。
・ 熱にうなされて夢.を見た。
・ 夢の中で一匹の白い猫が私にまとわりついてくる。家に帰ってきて居間に腰を据えると私の胡坐に乗ってくるのである。
・ やがて、ダイニングで食事に行くと再びいすに座った私の股に座るのである。
・ 食事にTVのチャンネルを替えに行くと着いてくるではないか。そしてダイニングに戻ると再び着いてくる。
・ 冬には猫はコタツで丸くなる。春陽には縁側で伸びをする。
・ それなのに夢の猫は私の行くところに飽くまでもついてくる。
・ そして自分の居場所を私の座中に求めようとしている。
・ 我が家のダイニングと居間の間には仕切り戸がある。普段は解放されておりワンルームで使われているが機能上から時々ゾーニング分けを余儀なくさせられる。つまり戸が必要に応じて開閉で来るように設計しておいたのである。
・ 行ったりきたりを何度もやっているうちに、やがて、白猫は疲れたのか居間の私についてこない。ダイニングの私にもついてこない。そして自分の居場所を間仕切り戸の敷居スペースに置いたのである。
・ どちらにも共有する居場所を確保したのである。
* 目が覚める:今の夢は何を意味しているのか?と半分夢うつつの中で考えている。
・ 空間を分ける間仕切り戸は下端:敷居と上端:鴨居で支えられている。
・ スペースと言うよりもラインと言ったほうが良いかもしれない。
・ 普段は居場所としての機能を持たない敷居・鴨居〔内法という〕にこの白猫は自分の居場所を見つけたのである。
・ そしてそのことに感動している不思議な自分がいる!
* 私たちのバイオリズムでは一日24時間:そのうちの1/3前後の睡眠をとるのが慣わしだ。
・ 冬眠生活する動物たちは不思議に思える。数ヶ月間眠るのである。呼吸数も脈拍数も極端にゆっくりになる。そして春と同時に一斉に起きだすのである。
・ 活動しない時間には空間さえ意識されない。
* 我が家では愛犬は長い間ずうっと何代にもわたって一緒に生活していたのであるが、どうしたことか猫が育たない家であった。
・ だから、我が家では猫の居場所は無かったはずである。しかし、この度の夢は敷居空間を発見したのである。
* 「猫の額」と言うことわざがある。
・ 猫の額が狭いこと(無いに等しい?)から、土地や庭が非常に狭いようすのたとえたことわざである。
・ しかし、夢知らせでは猫の額ほどのスペースがあったのである。
* 雪解けと同時に雪国の建築が一気に始まる。至る所で槌の音が響き渡る季節がやってくる。
・ 新築・改築にかかわらず、まず建築するキャンバスである建設敷地が必要である。無ければ建築できない。
・ その大切な敷地について目の錯覚が起こるのである。
・ 我が家の巣舞づくり行為が家族みんなの夢を乗せて話に花を咲かせてくれる。
・ 沢山の夢を盛り込んだ図面の打ち合わせが終わりいよいよ現場で建設が始まるのだ。
・ 造成地なら更地であるが、改築となると今まで建っている住宅をまず取り壊さなければならない。長い思い出のある巣舞を壊すのであるから誰でも感傷的になるのは避けられない。
・ そしてもうひとつのショックは巣舞が建っている時には気がつかなかった土地の大きさである。取り壊してはじめて気がつくのである。決して小さな家ではないと想っていた住人が取り壊した敷地を見てがっかりしてしまうのである。敷地の狭さである。
・ えっ?こんなに小さいの?こんなに狭かったの?錯覚に陥るのである。
・ 立体的になるとその大きさは実大に感知できるのであるが、平面だけだと実大感を創造できないのが一般人の感覚でもある。
・ 現場での建築着工は地縄張りから始まる。敷地に地縄を張って境界線からの離れや一階の平面をなぞるのである。今までは縮尺の図面等で考えていたが地縄張りは正に原寸大である。
・ 落ち込んだ建築主様に地縄段階では皆様誰もがスケール感の食い違いに戸惑うのであるが“実際に建つと大きくなりますからご安心して下さい!”と建設者側は力説して不安感を払拭することを忘れてはならない。
・ 地縄作業の次は基礎工事である。この段階でも半信半疑は残るのであるが。
* 我が家の敷地は「猫の額のようだ」と感想を述べられることもある。
・ しかし、実際に建築が始まり上棟式には再度錯覚を裏切られることになるのである。
・ こんなに大きな建物になりました。と!「ホッ」である。
・ 今から、30年ほど前に19坪の敷地に建築をさせて頂いたことがある。
・ それまではそこで生活されていたのであるが改築する為に取り壊した時にその敷地を見つめられているご夫妻の肩が下がっている姿を思い出す。
・ 建蔽率60%である。一階面積が12坪弱である。3階建てにすることで必要空間確保をすることが出来た。完成した時のお喜びは余計に大きかったことを思い出す。
・ 基礎の段階では女性に現場を見せてはいけない!と言う諺が「猫の額」の諺に重なっているのである。
・ あれこれ半世紀前になろうとする建築家東孝光氏設計のご自宅は東京渋谷区に6坪の敷地に建築された。車庫付き6層建築である。猫の額程の敷地に見事な設計で世間をアッと言わせた。日本建築学会作品にも選ばれた。私の大好きな建築でもある。
・ ・・・・・・ウィキペディアには次のように記載されている:
1966年(昭和41年)竣工、東京渋谷区神宮前に建てられた東孝光の自宅(兼事務所)で、出世作である。狭小住宅としておそらく最も有名な作品。都心のわずか6坪弱(20m2=平方メートル)という狭い敷地に、地上5階・地下1階を搭状に積み立てた鉄筋コンクリート構造。玄関を除けば、トイレも浴室も含め扉が一切なく、間仕切りもない。吹き抜けで開放的な空間設計が狭さを感じさせず、都心に住む醍醐味を満足させ、東の師坂倉準三の師であったル・コルビュジエの主張する「新しい建築の5つの要点(ピロティ、屋上庭園、自由な平面、水平連続窓、自由な立面)(近代建築の五原則)を踏まえている、と言える。
* 猫にまつわる諺はたくさんある。いよいよ新年度である。雪国では一斉に冬眠から覚めたように建設の槌の音が響き渡る。
・ 建設関係でも「猫の手も借りたい」と言う言葉がやってくる季節でもある。
・ 4月からの消費増税(5%から8%に増税)のために3月一杯で工事を完成したい現場も沢山あると聞いた。
・ 我が社の築縁様の方から電話が来た。息子さん夫妻が東京で巣舞を建築中だ。契約引渡し日の3月25日に引越しが決まっているのに内装が終わらないと言う業者からの泣き言に我が社の職人さんを手配できないだろうか?というものであった。
・ 東京だけのことでない。全国津々浦々で起きている事象であるようだ。弊社協力業者さんも4月になれば何とか応援できると想うが3月一杯はご勘弁を!であった。
・ 事情を聞き取り当方の状況も伝える為に相手建設会社監督に何度か電話させてもらった。内容を聞けば決して無理な工程でもない。こちらからの職人の応援は無しと言うことで工期厳守を迫った。結果として無事にすれすれセーフと連絡が届いた。良かった。良かった。
・ 本当に猫の手も借りたいくらいの気持ちは私たちにも十分すぎるくらい分かるのである。
* 巣舞づくりは祝い事でもある。猫の手を借りながら事故など絶対に興さないことである。
散歩途中で出会ったホウジロ
スタッフと現場視察に出かけたのは20数年前?
19坪の敷地に三層住宅(S造)十分大きな広がりを持っています。