ジッと私を見つめている一枚の絵がそこにあった。
エッセイ
すまいは巣舞
巣は形・舞は想い
想いを形に
巣舞るフォー・ユー
高田建築事務所
* こちらをジッと見つめている一枚の絵に出合った。こんな経験も久々だった。
・ 学生時代であったか就職したばかりの東京生活をしている時代までさかのぼる。記憶は定かでないが上野の西洋美術館で開催されていた印象派展で出会ったルノアールの「イレーヌ・カーン・ダンヴェルス嬢」の絵の前である。複製画を買って長い間部屋に掲げていたことを懐かしく思い出す。アラン・ディビニティーが私にとっての彼女の別名。
・ 又、ゴッホの「ローヌ河の月明かり」・「夜のカフェテラス」の絵の前で長い間、足が床に強力接着されたような足枷経験は誰でもあるだろう。
・ 11月1日(土):その日訪問したのは長岡市川口にある絵本作家の松岡達英先生のもともとのアトリエ:グリーンワークスである。川口駅から東京よりに国道17号線を数分車を走らせる。まもなく魚沼川を右手に見ながら急勾配の山道を左手に登るとまもなくアトリエが現れる。
・ 少々小雨の中であったが外部空間を楽しみながらアトリエに向かって歩をすすめると、原画展の案内板が目に飛び込んでくる。
・ 外観にも内館にも松岡先生の手作り作品がここかしこに見え隠れして来館者を出迎えてくれるのだ。
・ 前室(風除室兼玄関)に続くメインホールには今回の原画展の作品が所狭しと展示されていた。私たちが訪れた時にはもう多くの方々が来館されていた。
・ そしてそこを通り抜けると続き間にはアルコーブが設えられていた。そしてその奥の壁にその絵はかけられていた。
・ 少しの間だった長かったか?鑑賞時間は定かではないが,一枚の絵からなかなか離れづらくなった 私がそこにいた。
・ 全体構成でも一目に値した。左側空白部分とのバランスが小気味良い。後にその部分に絵本の文が載せられるのを見落としていた。文が載せられていなくっても、いやむしろ文がなくても原画はそれを超えて確りと耐えられる作品であった。
・ ショックだったのはその絵本をそれまで読んだことはなかったことであった。
・ 夕暮れのシルエットにゆうゆうと飛び来るふくろう。ブナの幹を逆さに降り来るホンドリス。その目指す地面にはブナの落ち葉で沢山の色彩がパレットから零れ落ちている。やがて重い雪の下になるブナの若木たちは確りと命を繋ぐ準備だ。
・ 自然力が持つ力を構成力と色彩で描かれた傑作のひとつといっても過言ではない。
・ 川口は新潟県中越地震の時の震源地でもあった。震度7を計測したのだ。重力加速度をはるか凌いで1300ガルを超えていたと後日判明した。大きな石も一度空中に飛ばされ落下した時には腹を見せて着地の姿を沢山見たのである。
・ その時、私は長岡市内にある目の前にある本社事務所から自宅に帰ったばかり。あまりの震動で手掛けた建築に大きな支障が出たのではないかと、一瞬行き場のない意識がみた深層の自分がはるか昔の幼き日の寂しきシルエットと重なったのである。
・ そしてそのシルエットと目の前の絵が重なってしまったのかもしれない。その絵としてではなく心情としてみているからのだろう。と一人が点もしている。
* 原画展では先に購入者が着いていた為に購入を断念していたが、後日松岡先生から、こちらにお譲りできるようになったからとお電話を頂いた。
・ この原画が載せられた絵本もお持ち頂いた。そして、その絵本の描いたきっかけからお話頂くことも出来むしろラッキーであった。
* その絵本のタイトルは「マザーツリー」(小学館)である。
・ 文は村田真一氏:絵は勿論松岡達英先生である。両氏とも長岡市出身である。
・ 村田氏は東京大学農学部林学科卒である。その後NHKに入社:私たちの馴染み深い「自然のアルバム」・「ウォッチング」・「生き物紀行」など一貫して自然番組制作に携わってきた。対象は微生物から大型動物・更に植物をテーマにした番組が多い。
・ 松岡氏は中南米・アフリカ・東南アジア等の豊富な取材を生かした、多くの科学絵本がる。「すばらしい世界の自然」・「ジャングル」・「恐竜物語・ブロンの冒険」・「里山百貨図鑑」などがあるが、最もお馴染みなのがかえるの「ピョ~ン」である。
* 「マザーツリー」の年齢は300歳を過ぎている。
・ 世界遺産条約に登録された白神山地(しらかみさんち)の”母なる木“マザーツリーをめぐる生命物語を絵本にしたものである。
・ 白神山地は東北地方の日本海側、青森市と秋田市にまたがって広がるブナ林の原生林が生息するところである。
・ 世界広しと言えどここまで見事なブナ林は他に類を見ないという。
・ その原因の一つがブナが生まれた2000万年以上前から今日までの間に氷河期の直撃を受けなかったこと。また、豪雪地帯なので3m級の積雪が一年を通じて植物・木々の成長のために必要な水分を欠かすことがなかったからだという。
・ 生き物たちにとっては、一見厳しいと思われる雪の世界。しかし、その雪が豊かな自然を作り出し、育んでいるところ、それが白神のブナ林である。
・ ブナの森はいくつかの層に分かれており、高いところからはブナ、その下にはカエデの仲間・低いところではムシカリやヒメアオキ、そして地上にはチシマザサと言ったように、様々な植物が生えるところで、変化のある環境が作り出されている。
・ それらの植物に沢山の昆虫が集まり、それを求めて鳥や小さな動物たちが住み着いてくる。
・ 豊かなブナ林のサクセスストーリーである。(参照はマザーツリー:小学館:田真一氏から引用)
・ 海を大切にする人は山資源を大切にする。反対に山資源を大切にしたい人は是非とも海を大切する必要がある。
* 以前ブログで、グランチャ(絵本館)でこのことは書かせて頂いたが絵本は「文と絵の協奏だ」と言うことを!あらためて教えられた。
・ 又こども目線で豊かな世界を見ることができることで人類が自然との共生を学ぶことが出来るのである。