NO.22 「雪国の風景⑤」・・・・雪に強い究極?の屋根
エッセイ
前回までに屋根雪処理方法には、それぞれ一長一短があることをお話ししました。今回は、それぞれの短所を補完する複合タイプの究極(?) の提案です。
長岡市に住むKさんの第一条件は屋根雪対策をいかにするかでした。耐雪式を基本に考えると高床式基礎では、基礎荷重に加えて雪荷重がかかることになり、か なりの重さになってしまいます。鉄筋コンクリート並みの構造を要求されることになってしまいコストがかかる上に、木造のメリットが希薄になってきます。次 に、自然滑落式ではプラン面積が大きいと落雪のスペースが広く必要になり、敷地的制約を受けることになります。また、全部融雪式では、屋根面積に比例して エネルギー源のコストがかかってしまいます。
そこでKさんの場合は屋根を四ブロックに分け、小さな屋根を造ることにしました。この考え方は「住まいは家族一人ひとりの居場所を大切に包み込むところ」 というコンセプトを形化したものとも一致します。プランは五・五間の正方形で総二階。構造は高床式基礎の上に造られた木造二階建て。四つの各塔は、独立性 を持たせた屋根構造を表し、採光部を設け明るくしました。さらに見晴らしのよい越し屋根を西側につくり、長岡花火が楽しめるようにもいたしました。このよ うに自分の居場所を主張し、お互いが肩をよせあって語らう住まいは、「多塔屋根の家」とネーミングされたのです。
屋根雪対策は、家の中央部に四本の柱を配置し耐雪構造と融雪設備を混載させ、屋根の四辺周囲は、たい雪スペースから逆算した滑落式屋根を採用しました。ま た人や車が出入りするところは落雪の危険から身を守るために、その部分だけ温水融雪式を採り入れました。まさに雪処理に見るハイブリッド工法といってよい でしょう。このように一軒の家でさまざまな屋根雪処理を組み合わせるのは非常に珍しく、結果としてかなり個性的なインパクトのある外観になりました。決し て、奇をてらおうとして出来た形ではなく、屋根雪処理の知恵から生まれた必然的な姿でもあります。
雪対策から生まれた新しい形が、春夏秋冬の風景と語らう詩が聞こえます。「多塔屋根の家」は、春風に優しく戯れ、夏の熱気を排出するチムニーの様、秋の夜 長に灯火を惜しみ、冬には雪をポッタリと冠した綿帽子の風景、大屋根から多塔屋根へ、今、屋根はさらに大きく私達に語りかけようとしています。宇宙からの 交信に耳を傾ける多塔の光はロマンチックスクリーンと化すことでしょう。