高田清太郎ブログ

NO.32 「デザインソース 3」・・・・風土的メモリアル狙う



エッセイ

「桜の花はどうしてこんなにきれいなのだろう?それはね、その下に多くの魂が眠っているからだよ!」と作家・梶井基次郎氏が書いていました。現在は過去の結果であり、そして、未来へのプロセスでもあります。
今回は、土地の持つ歴史が建築物の形に大きくかかわったという事例です。押切駅前郵便局の移転計画が決定したのは今から五年前。JR信越線の押切駅前で 地域の人々に愛され、六十年の歴史を持つ局舎でした。しかし百メートル西にバイパスが完成したのを機に局舎の移転が計画されたのです。
建設地は昔、猿橋川が蛇行していた当時の河川敷。川は長岡市と南蒲中之島町の境界線でもありました。後年、蛇行線は直線的に河川改修されましたが、地番はそのまま残り、建設地は両市町にまたがっています。
川は長い間、交通輸送手段として用いられてきました。猿橋川の川岸にも古い蔵が点在し、船着き場として発達してきたことがしのばれます。越後平野は大穀倉地帯!近隣農家から集められたお米は俵船に載せられ運ばれたのでしょう。
そこで、外観も越し屋根も俵船をデフォルメすることにしました。郵便局舎はもともと公共施設の役割を持つだけに、歴史を建築物に刻み込もうというもので した。そしてその地が長い時間を掛けて醸成してきた生活の香りを形にし、町のもつ特徴を生かすことにしました。はさ木・レンコン・蔵・米俵・俵船・凧合 戦・その町の歴史を大切に伝える、風土的メモリアルな物にしようと設計を進めました。地域住民のカルチャー活動の場としても利用できるよう、コミュニティ ―ホールも併設されています。
川が道路に変わっても人・物・情報を移送するという基本的な手段であることに変わりはありません。そして、その上に立つ郵便局も情報や物を運ぶという点で同じ使命を持っています。偶然に仕組まれたカラクリといったところでしょうか。
桜の木の根元には歴史が同時混在する、風土とはそんな不思議なエネルギーによって息づいているのでしょう。時に建築はそんな風土のシンボル化を担うこともあるのです。