高田清太郎ブログ

豊かな居場所から豊かな人間が生まれ、育まれる



エッセイ

人間の居場所を研究。それは人間そのものを研究すること

高田建築事務所へ住まいづくりの相談に行くと『放題紙』がお客様に渡される。メモ用紙と組立式の小箱がセットになったものでお客様はそれを家に持ち 帰り、「明るい家に住みたい」「モダンな家を作りたい」など、家族それぞれの想いや意見、要望を書き留め、その小さなボックスに投函する。スタッフは集 まった想いたい放題、言いたい放題、書きたい放題に基づき、その家族にふさわしい住まいのコンセプトを作り、アイデアをふくらませる。「規格住宅を提供し ているわけじゃないんです。住まれる家族の方と一緒になって考え、形にしていきます。それにニーズこそ発明の母でもあります。」と高田清太郎代表取締役社 長は話す。TAKADAでは住まいに『巣舞』という文字をあてている。巣は形、舞は想い。できません、やめた方がいいと作る側の理論で対応するのではな く、どういう住まいをされているのか、どんな住まいをなさりたいのか、住まう側のお客様の立場を第一にする。
「転勤で毎日の雪おろしは不可能、一週間ごとならできる。ただし木造の家で」。そんな要望を満たしたのが、2ないし2.5メートルの雪に耐える安定性を確 保した木造耐雪住宅『やじろべえ住宅』だ。やじろべえの持つバランス性を建築構造に活かし、積雪荷重を均等分散させる仕組みになっている。高断熱と空気循 環によって、冬場は暖かく快適に過ごせ、結露やダニも防止する外張断熱流気工法雪国健康住宅『DAC(ディバイデッド・エア・サイクルシステム)』や、給 湯、床暖房に太陽エネルギーを用いる雪国フォルクスハウス『OMソーラー』など、この地ならではの構造による住宅づくりにも取り組んでいる。
一方、マンガ好きの女の子がいる一家には、住まいの真ん中にドラえもんの四次元ポケットのように何でも出せる収納庫を配し、遊び場であるプールや滑り台、 屋上にはまるでどこにでも飛んでいけそうなタケコプターの越屋根を設けた『ドラえもん住宅』を、ピアノやヴァイオリンを習い、活発でにぎやかな四人の男の 子を持つ一家には玄関土間の小川、通し柱の樹林、吊り橋調の廊下などロバ、犬、猫、オンドリが元気に活躍する童話をイメージした『ブレーメンの音楽隊の 家』を提案。数あるコンセプト住宅のうちこれらは数例に過ぎないが、TAKADAの『巣舞』は愛と夢に溢れたものばかりだ。
「豊かな居場所で豊かな人間性が生まれ、育まれます。住まいは決して新しい、美しいだけじゃなく、人の体と心を包み込んでくれるものでなければなりませ ん。人はそもそも母の胎内にくるまれ、そこから放り出され、どこに住むか。昔は洞穴であり、今は天井、床、壁に覆われた家です。しかし人を囲む、人に口が まえだと『囚』になってします。そこでクローズとオープンのバランスが必要なんです。見せたいけど隠したい、開けたいけど閉めたい。私たちは人間の居場所 を研究し、実は人間そのものを研究しているんですね」。社長の話は面白く興味深く、あたかも講義を聞いているようだ。実際新潟大学工学部建築学科や県立新 潟女子短期大学生活学科で非常勤講師を務めていたこともある。

新世紀と新ミレニアムが交わる21世紀はDOCI(どっち)の方向へ

TAKADAの創造は、『巣舞』と呼ぶ個性的な住宅ばかりではない。市役所や裁判所に並んで建つ『長岡ルーテルキリスト教会堂』は地方性を豊かに表 現したものだ。「世界にはいくつも印象的な教会があります。そこで雪国らしい教会を考えました。雪ん子とペンギンがデザインのモチーフになっています。全 体的に雪けさをかぶった女の子のように見えるでしょう。アプローチの柱はペンギンの足、三魚形の梁は羽を見立てています」。
医療、福祉施設や教育施設も愛や夢に満ちたTAKADAにうってつけのジャンルだ。『ミトロの森メディカルパーク』は宇宙が創られた時のような渦をコアに 作り、そのまわりに惑星を配置するように診療所棟を置いた。『喜多町診療所フリースピタル』はFreedom+hospitalの造語で人の心を重荷から 解放してくれる空間(病院)を意味し、メンタルケアを受ける空間、ホッとする居場所を願ったものだ。『田宮病院第8病棟ホスピデンス棟』は、精神科病棟で 住宅と病院を混合した造り方とした。『田宮病院第9病棟リ・ラク・ナス棟』は、老人性痴呆療養病棟で、人生の道程を成熟すべく居場所として想定。リ (再)、ラク(楽しみ)、ナス(人生の成就)と、リラックスナース(がんばれナース)をキーワードとしている。『中条聖心幼稚園』は鬼婆(ばんば)の民話 をテーマにした。三枚の札を手に童は追いかけるばんばから逃げる。山(段に阻まれる)、火(灯が燃えたぎる)、池(水がしたたり落ちる)。そんな体験を通 じて自然への畏敬や感謝、自分たちの命や、生き物の生命の大切さを知る。そんなストーリーが学舎に息づいている。
高田建築事務所は今年設立からちょうど25周年を迎える。そこで今世紀からニコニコの樹を植えるエコロジカルな運動も始めている。2525とにこにこと2 個の語呂合わせで今後新築ごとに2本の木を植えていく。1本は未来の子や孫のために、もう1本は地球環境のために。また21世紀に臨み、混沌の中で 『DOCI』の方向へ向かおうとするムーブメントを起こしている。Dはデザインとドリーム、Oはオリジナル、Cはコンセプトとコミュニケーション、Iはア イデンティティ。TAKADAでは、はじめに言葉ありきを信条とし、ものづくりの使命を無から有を生み出すことだととらえ、豊かな言葉を宿したノンフィジ カルなイメージをフィジカライゼーションする、つまり言葉を創造することを大きなテーマにしてきた。数々のデザインの受賞歴を持ち、特にこの四年間新潟県 建築士事務所協会設計コンペにおいて最優秀賞を連続受け、全国大会へ駒を進めるほど、県下を代表する建築会社になっている。
「豊かな居場所探しを続けてきただけです。プロジェクトDOCIとしてかまくらを作ったり、明かりを灯したり、花を咲かせたり、人の心理を探るユニークな 実験も試み始めました。豊かな居場所の答えは人間の心の中にあります。建築って結局人間を考えることなんですね」。居場所の追求こそ高田社長が目指す道な のであろう。

(2004.1 EAGLE掲載)