高田清太郎ブログ

新春に想い出を!ドイツ紀行の断片!少々ブログとしては長いが写真だけでも眺めていただけたらありがたい。(2004年ライト会団長:斉藤公男日大名誉教授へのリポート)



エッセイ

R―128   Sobek  Residence

  

1:イントロダクション
幹線道路から一本入ったところで私たちを運んだバスは停車した。
Dr.Sobekの自邸はそこから歩くのだと言う。交差点から小路に入り込むと両側はうっそうとした木々でうまっている。夏には涼をとりながら散歩するには格好の場所でもある。冬のことを考えるとちょっと心細い。100メートルほど歩くとかなりの急傾斜路面が始まる。200mほど下った頃、小路の左側の木々に切れ間が出来てきた。グーンと視界が開けたところが目的地のご自邸である。6~7mあるであろうか高さ1.5m位の門扉が遠隔操作で開けられる。ゲート脇には128と銘記されたステンレス製の郵便受けが設置されている。その上には門灯に並んで監視カメラがしっかりと付いている。開けられたゲートをくぐると、最初にお出迎えしてくれたのはSobek氏の愛犬2匹である。愛嬌はいいのであるが、一人一人のズボン裾野の匂いを嗅ぎ分けている。しっかりとボディーチェックである。テロ時代彼らの役割もしっかりと意識しているようであった。ゲートを入ると左側に置き式のコンテナ級のストレージ2台が置かれている。この段階では目的の建築R-128はまだ見えない。我々は右側の方に誘導されるように敷き詰められたグレーチングの上を歩く事になる。10数歩歩くと左折するのであるが、そのポイントからシュトッツガルトの街並が遠望できるのである。まさに絶景かな!である。グレーチングアプローチが更に左折する。すると左手下方方面に目的のR-128が目に飛び込んできた。更にグレーチング階段を何段も下がっていくと漸く4階レベルに到達する。そのまま直進すれば一階のゲストハウス(息子さんが使用中)に通じるが私たちが案内されたのは当然右折して本宅玄関に導かれる。傾斜地の地盤は元地のままである。その上に鉄骨の支保工でグレーチングを支えているだけである。ある意味でとてもシンプルであり、雨水排水も自然のままである。ここでも自然との共生の精神が生かされていた。やがて住宅のエントランスへとつなぐブリッジはそのまま建物の端部から跳ねだしており空中を舞うような感覚になる。しかも、キャンチが長いのと部材が細いのでシーソーみたいに微妙な揺れを感じるのである。揺れながら街並みと空を一望した。全てはこのロケーションと連動していることをあらためて記憶した。R-128はこの敷地で無いと成り立たないものでもある。と強く想った。
それでは準備オーケー。空を飛ぶ鳥になってR-128についていくつかのコメントをさせていただくこととする。
ロケーションはシュツゥットガルト市内の緑多い急斜面の敷地。この土地は自然保護地域であり勝手な開発は制限されている。前所有者から譲り受けるまでに3年を待つ必要があったと言う。(3年以上でも待ちがいのある敷地)
アプローチは全てグレーチングであり、ブリッジも含めてスケスケである。結構な急階段坂道。いつの間にか雨の日や雪の日は?風が吹いたら?勝手な心配をしてしまっていた。4ヶ所に屈折するアプローチは夫々の景色を変えて見せてくれた。まるで日本庭園の手法のようにも感じる。

  
 
2:建築概要
・ ほぼ正方形平面の4層で、4F:キッチン・ダイニング 3F:リビングスペース 2F:ベッドルーム 1F:ワークショップとマシンルーム
・ スパンは8.5m X 9.5m
・ 建築面積は約80㎡・延べ面積は250㎡(吹き抜け含めて約300㎡)
・ デザインはとても洗練されており、不要なものは全て削ぎ落として行く手法は全面ガラス張りの為に正面のP.Sは表しであり、各階のエネルギー供給スペースは全て天井と床に埋められている。シンプルに作る。そのことがとても豊かな建築作品になって完成されていた。(私たちは日中の訪問であったが夜ならR-128そのコンセプトを一瞬にしてキャッチ出来たであろう。そして、もっと感動したに違いない。
・ 住人は親子3人暮らしである。現在では息子の部屋は1F(グランド)レベルにある離れのゲストハウス:丁度よい親子の距離でもある。近すぎず、遠すぎずである。どんなに素晴らしい自然環境があっても快適な居場所はこの距離感が重大である事は奥様の口からも確認できた。
建物4階玄関階から直ぐにキッチンがはじまる。日本の一般住宅ではKDは入り口からは離されていることが多い。しかし、R-128はエントランスドアを開けるといきなりキッチンである。日本人の空間には“はれの舞台とけの舞台”があった。日本のキッチン・台所の歴史は紛れもなく“けの空間”であった。長い間隠されようとした位置にあった。その分反対に近年ではオープンキッチンは若者の人気であるが。R-128は元々ガラス張りである。隠れ位置は基本的に作らないがコンセプトでもある。
ここで、視点を少々変えて見よう。当ロケーションは元々特殊敷地に成り立っていた。そこで、敷地全体が建築であると考えるととても分かり易い。外壁は周りを囲む鬱蒼とした樹木たち。ゲートがすでに玄関なのである。長いアプローチは廊下にも匹敵する。だから4階の景色の良いところはKD(L)なのである。食事に対する価値基準・考え方が海外に行くと全然違う事に今更ながらに確認する。食事は人生におけるとても大切は行為なのである。よく西洋人は食事をするために働く。反対に日本人は働くために食事をする。食事は日本人的にクローズドですることではない。オープンに楽しむ場所である。だから一番いい場所が用意される。(現代日本人の生活スタイルにも馴染んではきているが)

  

3:プライバシーの問題
・ 全面ガラス張りのとてもシンプルな住居が生まれた。プライバシー問題は?
全面ガラス張り住まい。カーテン・ブラインド一切無し。全面ガラスなので周囲の景観は全て一望できる。急傾斜をはるか遠くに街の中心部を望む事が出来る。周囲は自然林に恵まれまるで一杯の緑・大きな空・自然と一体になった感覚には絶句である。外の風景を取り込むことは同時に内部の風景をオープンする事と同義語である。オフィス建築や公共建築物においては全面ガラス張りはむしろ定石。目新しいものは何も無いものであるが、住宅であるから気になるところである。(一度東京駅八重洲口にあるホテル:フォーシーズンに宿泊される事で確かめるのも良い。勿論ロケーションは全然違うが。カーテン・ブラインド無しで少々過ごす事をお勧めしたい。或いは、分厚いコンクリート壁やレンガでしっかりと管理される銀行建築を見慣れた人に金庫内部までガラス張りだとしたら・・???果たしてそんな銀行に預貯金するだろうか?に似ているかもしれない。反対に借りる側からすれば歓迎かもしれないが?)
・ 外に対して開く事と閉じる事の必然性はこのプライバシーの問題にかかわっているからでもある。住む側の意識改革と価値観の共有がことさら強く求められる事になるのではないか?私にとっては日常の生活スタイルから掛け離れた発想と同時に魅力的な形だけに多くの疑問も避けられない。可能な事なら四季を通じて一週間単位でも生活して実体験してみたいものである。
・ 丘陵地である。周りは草木で取り囲まれている。眼下に広がるシュトゥットガルトの街の家並は確かに遠い。それでも夜になれば中はスケスケ。程よい緊張感を持ちながらの生活である。一度かなり離れたレストランから双眼鏡で覗いた話が出てきたが、見えなかったらしい。必要なところしか電気はつけない。消灯しても周りの光で内部は明るいという。夜間電気を消灯したら余計にロマンチックである。周りが透明と化し夜空が一面に広がり星や月が瞬く時こそ、全ての想いから開放されてオープンマインドに飛翔する一時でもあるのだろう。映画の中のワンシーンを連想してしまう。その時には外と内の境界がなくなる。アーティストの奥様は“まるで鳥になったようである。”“何物にも変えがたい空間である”とお話されていた。

  

4:完全ゼロエネルギー住宅を目指す。
・ 全面ガラス張りはプライバシー問題だけでなく、熱環境の問題を解決されなければならない。R-128の必要電気エネルギーは太陽電池によって作り出されると言う。また、窓から侵入する太陽エネルギーは天井パネルに吸収され導水管を通って1Fの蓄熱槽に運ばれて必要に応じて利用される。暖かい空気をダイレクトゲインする方式でもある。
 ・ 全面ガラス張り住宅は一般的にはエネルギー負荷が大変大きい事になる。しかし、R-128のガラスの熱貫流率(U値)は0.45W/㎡・Kと極めて高い断熱性能を実現している。日本では考えられないガラス構造でもある。その形状は両面に透明強化ガラス10ミリ(外部側・Low-Eコートを溶着)と8ミリ(内部側)の中心に遮熱Low-Eコート付きフィルムを挿入する。その両側にはクリプトンガス層13ミリを2層設ける。熱伝導率は空気1に対してアルゴンガスは0.6クリプトンガスは0.3である。空気に対して3倍も熱抵抗が強い事になる。日本で使われている複層ガラスのU値が3.0位であり、トリプルガラスでも1.9である。Low-Eガラスを使用しても1.6であるから熱貫流率(U値)は0.45W/㎡・Kは、いかにランクの高いものであるか分かる。


5:セキュリティーはコンピューター制御住宅
前述のようにセキュリティーゲートは遠隔操作で対応。スイッチ無く、ドアノブもない。近接センサーや音声コントロールの下で制御される。
ゼロエネルギーの家に住むということは常にエネルギーチェックが出来る事が必要である。この住まいづくりをするに当たっては外部から電話・コンピューターを使用してチェックできるコンピューター制御パネルが開発されたという。なんとも未来住宅の生活スタイルはこのコンピューター制御に見ることが出来る。
それにしても、全透過構造こそプライバシー問題を除けばスケスケで外部からも内部からも一望できる最も原始的なセキュリティーといってよいかもしれない。


6:再生可能な建築=エコ建築:コンセプトは環境にインパクトを与えない。
スケルトンの鉄骨は溶接に頼らず全て差し込みネジ止め(ボルト接合)による固定方法を採用しているから解体・移動も自由である。細い鉄骨スケルトンは分解移動を容易にさせることが出来る。決してスクラップが最終姿ではないことになる。
基礎もノンアンカー方式の置き型である。地震が無い国だといえばそれまでであるが、建物が基礎にアンカーされていないから必要であればそのまま一瞬に持ち去る事が出来ると言う。なぜなら、R-128の建築に使われている使用材料は総トン数40トンと言う。スチール12t+ガラス20t+木5t+α=40トン。一般的にはこの規模では400tであるからその重量は1/10であり、そのままヘリコプターで運べるそうである。(フランク氏説明)

  
7:収納の少なさは?どのようにカバーしているか?
一般には壁面に収納面を多くとるのであるが、全面ガラスではこれは出来ない。付け加えて飾り場所もないのでは無いか?の質問にSobek婦人から日本空間と同じです。との返答。何故なら日本の障子文化住宅では本式に飾る事が出来るのは床の間だけではないのか?と切り返えされてしまった。
収納は必要なものだけを用意する。実はSobekさんはR-128の他にもう一ヶ所住まいをお持ちである。計二ヶ所のすまいは一方を如何にピュアーに使えるかの保証でもあるような気がする。いずれにせよ、今まで持っていた75%の布団はじめ物はボスニア人庭師さんにくれたと歯切れは良い。布団は二枚で十分。身軽になる事。キッチンにはワインクーラーがセット・ローボードには食器類が入る。夫々の必要最小限の収納は確保されていた。リビングの開架式書庫はまさにインテリアファーニチャー。それでもガレージとストレージは必要な箇所に必要なだけあった。

  

8:マリオボッタの作品との比較
マリオボッタの作品1971年“リヴァ・サン・ヴィターレ”(スイス・ルガーノ湖畔)に非常に似ている。マリオボッタは学生時代に最も気になる建築家の一人であった。特にこのリヴァ・サン・ビィターレを避けてはボッタを語れないほどの代表作である。平面をトレースしたことを記憶している。今あらためて比較する事をしておきたいので後記参照としたい。……………眼下に広がるロケーションからアプローチの仕方・正方形のプラン・最上階にエントランスを設け、下階に4層になるつくり。更に夫々の階が吹き抜けにてつながる。その差異をリストアップことにする。

9:Dr.Sobek氏はマルチ人間。ご自分をどの様に位置づけているか?
意匠と構造を両方手がけられるご自分をどのように位置づけているか?事前情報ではArchitecture+Engineering=ARCHINEERINGと呼んでおられますが?
本人はご自身を「デザイナー」と呼んでいる。家具デザイナーもするからだという。ましては最近はR-128の様に住宅もデザインしている。加えて仕事の内容では3つのE(Exhibition・Entertainment・Engineering)+1E(自邸における住宅の様に建築をスクラップにしないで良いようにする為にElement化作業も含める)だそうである。

10:得るものが強ければそれだけ捨てるものも多くなければならない。
そんな風に事前資料を眺める時にぼんやりと一人納得していたのだが見事にその考えを裏切られた。質問形式で進めた当リポートコメントから汲み取っていただけたらありがたい。
ネーミングのRはRoman通りのRで128番地らしい。(あんまり関係ないが前夜に宿泊したホリディーインの部屋番号が128号室であった。それにしてもこれは奇遇である。コメント担当は間違いなく私であったのである??)しかし、私は敢えてRに意味を持たせたい。
・ Residence-128:まさに宝(知恵)の箱・豊かな生活を醸すR
・ Remember-128:帰国後も強烈な印象・記憶のR
・ Report-128:Re+Port=もう一度港に入って見直す。まさにリポートの重大性のR
・ Research-128:今後研究リサーチ対象―128のR

以上

House at Riva San Vitale:Mario BottaとR-128:Werner Sobekの比較

比較項目     Riva San Vitale           R—128
・ ロケーション  ・ルガーノ湖畔の傾斜地    ・シュツットガルト市街地を
サン・ジョルジュ山麓      一望できる傾斜地
ブリッジ対角線にメライド教会  眼下に広がる街並み

・構造      ・RC造4F          ・鉄骨造4F
・外観・ファサード・RC+ブロックの立方体    ・鉄骨+全面ガラス張り透過形
を内外吹き抜けで切込み形
・敷地面積    ・850㎡           ・?㎡
・建築面積    ・100㎡           ・80㎡
・延べ面積    ・220㎡           ・250㎡
・スパン     ・8,5m X 9,5m    ・10m X 10m
・階数      ・4階建て+地下室       ・4階建て
・4F:EH・書斎・アトリエ  ・4F:EH・DK
・3F:寝室・バス       ・3F:L・書斎・サニタリー
・2F:子供室・ギャラリー   ・2F:寝室・バス・ストック
・1F:LDK・暖炉S     ・1F:機械室・ストック・
・地階:機械室・ストック    ・地階:ナシ
・吹き抜け    ・室内・室外共多くある。    ・室内吹き抜けのみ
・階段      ・中心部コアー形式廻り階段   ・中心部一本階段
・アクセス     ・4階最上階ブリッジにて    ・4階最上階ブリッジにて
・ブリッジ    ・L=18m          ・L=21m(エントランス迄13m)
フレームボックスタイプ     手摺りタイプ
・その他
* 建物スケールから・ロケーション・最上階からのブリッジアプローチの仕方・などなどとても共通点はある。両者とも魅力ある建築作品である。しかし徹底的に違うのはファサード質感そのものである。片や外部からは視覚的に遮断形式を取り内外吹き抜けとテラス空間で内部空間と外部空間を相互貫入させている。そしてもう一方のR-128は全面ガラス張りで内外部空間を一体化させている。
* その両者にはこれからの住宅建築の流れの方向を示唆してくれるもの大である。

 
ブリッジが貫通する外観    アクセスブリッジが4Fに横付けされる

 
4Fにアクセスするセクション      4Fにアクセスするセクション

 
4層+地下室プラン         4層プラン