【築縁様インタビュー】美術館の家
2023.02.27
くらし・たずねて
「完成がはじまりです」
いつも、そんな気持ちでお引き渡しをしています。
家具が入り、家族が過ごし、日々を重ねる中で、その家らしい空気が生まれていく―。
家族とともに育ち、独自の色を深めた「数年後の住まい」を訪ねました。
まるで美術館。
余白と質感を生かした住まい
【DATA】
新潟市K様邸 / 2021年入居 / 夫婦 / 新築
玄関を入ると、広い土間の上に丸いドーム天井、壁には絵画。住まいというよりギャラリーだ。余白が生かされた静謐な空気感。それは、続くリビングに、そして家全体に満ちている。
「平屋」「お互いの気配がわかるように」「自然素材を使いたい」「器を飾りたい」。K夫妻は「放題紙」*を使い切って、思いを伝えた。すっきりと落ち着いた雰囲気。和モダン、シック。広がりゆくイメージに、二人が発した「美術館のような家」という一言で、方向性が決まった。
リビングスペースは、まさに美術館だ。壁には絵、下の棚板には器。床はヘリンボーン張り。一人掛けの椅子が二つ。作品は余白を生かして、生活用具も最低限に。それが美術館と通じるのだろう。絵画ありきで始まった空間づくり、と見えるが、「実は、絵を飾ろうと思ったのは、家を建てている間だったんです」とK夫妻。「TVを置かない代わりに」と飾ったところ、気持ちも変わった。絵画をもっと知りたくなって、美術館に通ったり。最近は、二人で美術検定に挑戦したという。
和室は、玄関とダイニングの両方につながっている。一方の障子を開けると、キッチンに付けた半円形のテーブルが見える。「テーブルを置かない」と聞いて提案されたカウンターは、アールを付けることで、「取って付け」ではなく、絵になるテーブルとなっている。
キッチンの壁には、当初から希望していた器の陳列棚。ガラスを嵌めた中に、ゆったりと間隔を空けて置かれている。中には新潟の作家ものもあり、「使ってこそ」と眺めるだけでなく、日々、手にして、使って、洗って、慈しんでいるという。
リビングと通路の境界には格子を配して。水回りに続く「廊下」だが、ここも美術館の一角のよう。アールを付けた開口部、その向こうの小さな飾り台が、暖かさを添えている。
洗面スペースとクローゼットはつなげて。手前にはサンルームのあるランドリーがあり、洗濯して干して、仕舞うまでが、一直線で完結できる。洗面ボウルはシンプルなデザインと使いやすさから、理科室でも使われる深型シンクを提案、造作に組み込んでもらったという。
壁は珪藻土、吊り棚の戸は柿渋塗り。和室も、手触りのある自然素材でまとめられている。微妙な風合いを大切にする夫妻に対して、色や素材は「静の揺らぎ」を考えて提案された。
ドーム天井の下には広い玄関土間。「絵を描きたい」「靴磨きをしたい」という要望に対して、部屋としても使える玄関に。現在は、二人の新しい趣味であるロードバイクの置き場所としても活躍している。
はじめから二人は、「仕切らなくていい」と言っていた。格子や障子を採用し、全体がゆるやかに、大きくつながるK邸では、どこにいても互いの気配が感じられ、どの空間も上質な空気感に包まれている。K夫妻は言う。「品のある家にしたい、と思っていましたが、漠然としたイメージを、隅々に至るまで形にしていただきました」。ここでは、絵画や器だけでなく、家具も、そして二人の生活も作品なのだろう。家という器の中で、二人が過ごす満ち足りた時間が、住まいという作品を、いっそう味わい深くしていく。
*放題紙‥普段考えていること、暮らしへの思いを「言いたい放題」「描きたい放題」自由に描く紙のこと。
*参考*
9つの宣言:わたしたちは「放題紙」を使います
スタッフブログ:「紙でつくった家???」
●「美術館の家」住まいの実績写真は こちら から